定年退職と聞くと、20代、30代の方にとっては、遥か先のことのように思えてしまいます。もし、40代の方でしたら、社会人人生も折り返し地点を過ぎ、少し身近な問題として考え始めているか知れません。
全ての人が共通して覚えておかないといけないことが3つあります。この3つは、皆さんが今何歳であろうと共通しています。
- 誰もがいつかは定年退職を迎えるということ。
- 定年後の時間は意外と長いこと。
- 老後の準備を始めるには、今日が1番若い日であり、今日から始めるのがベストだということ。
そして、もし今の日常が『家・電車・会社』の往復だけの仕事ばかりの毎日になってしまっていたら、注意が必要です。定年退職をして、時間が出来た時から、地域や家庭に居場所を探そうとも思っても手遅れです。自分の居場所はそう簡単には作れません。
一心不乱に仕事に打ち込んできた人たちが、老後に居場所を失い、路頭に迷う現実が社会問題になりつつあります。
今回は、そんな老後を迎えないために、今から私たちができることについて考えていきたいと思います。
あなたも無関係ではない!定年退職後の孤独!
『2007年問題』をご存知でしょうか。
これはいわゆる団塊の世代(1947~1949年生まれ)の方が一斉に定年退職を迎えたことに関する問題です。一般的に団塊の世代の方々は、日本の高度経済成長を支えた、仕事上の高度な知識や機械に代替できないような技術を持ち合わせていることが多く、その後のマニュアル化されていないノウハウの継承や後継者不在の可能性など様々な影響が予想されました。今まで、時代の中心にいた人たちが現役をしりぞき、新たな世代が日本の中心となり新たな時代が幕開けたのが、2007年前後からです。
しかし、一人ひとりの視点から見ると、『2007年問題』新たな側面が浮かび上がってきます。
仕事中心に生きてきた団塊世代の男性達が定年を迎えて、職場から家庭や地域に生活の場を移す際に出てくる問題が、男性学的な意味での「2007年問題」です。
中学時代や高校時代に、部活動などに熱心に励んだことがある人も多いと思います。しかし、その部活から引退した瞬間に毎日の生活にハリがなくなってしまい、生きる希望がなくなったような感覚を感じたことがある人もいるのではないでしょうか。わずか数年の部活でさえ、そのような喪失感に陥るのです。しかし、団塊の世代の人たちが働き始めた時は、週休1日が当たり前で、40年間仕事一筋で働いてきたのです。そんな生活から仕事がなくなれば、部活の引退とは比べ物にならないくらいの膨大な喪失感を抱くことになります。
それに加えて、仕事中心の毎日を過ごした結果、地域に友だちがいなく、家族とも微妙な距離感があるという状態で定年退職を迎えてしまった団塊の世代の人たちがたくさんいるといわれています。つまり、定年退職後は、仕事をなくした喪失感と地域や家庭での居場所のない孤独感と戦っていくことになります。
定年退職後の孤独は、全ての働く人、特に男性が当事者意識をもって考えていかなければいけない問題なのです。こうした将来が待っているということを20代のうちからしっかり認識することが大事だと言われています。
漫然と働いた時期は、取り消すことができない
働いている間は、自分を客観的に見ることがなかなか難しいものです。やりたい仕事があるから、今の会社に入ったのに、やりたい仕事はなかなか出来ないと悩む人も多いと言います。しかし、いつか希望の仕事に就くことができるのではないかという幻想を誰もが追いかけ、気が付いた時には定年退職ということも往々にしてあり得ます。たくさんの人が、希望の仕事が出来ないままに会社を去るにも関わらず、それが当たり前だと我慢の会社人生を送る人がほとんどである今の日本の社会に危機感を感じます。
新入社員の時は、「いつか希望の部署にいってやる!」「いつか出世してやる!」「いつか会社を辞めて起業してやる!」などと考えながらも、「プライベートも充実させよう!」とか「たくさん海外旅行にいこう!」などと考えたと思います。しかし、数年働けば、会社の仕事だけの日常になってしまいます。
気が付いた時には、毎日が『家・電車・会社』だけの往復になっていませんか?
タイムズ紙の選ぶ「世界のトップビジネス思想家15人」の一人であり、ファイナンシャルタイムズで「今後10年で未来に最もインパクトを与えるビジネス理論家」と称賛され、エコノミスト誌の「仕事の未来を予測する識者トップ200人」に名を連ねる世界を代表する女性実業家のリンダ・グラットン氏は次のようにいっています。
「漫然と迎える未来」には孤独で貧困な人生が待ち受け、「主体的に築く未来」には自由で創造的な人生がある
リンダ・グラットン│ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉
何故40年もの長い間我慢をしながら働き続けることが出来たかという質問に対し、多くの定年退職した人が「途中までは我慢、ある時から感覚が麻痺して、考えることをしなくなる。」と答えたと言います。
確かに、社会人として、フルタイムで働き、会社のことだけを考え、日々生きていくことは『立派な社会人』としての評価かもしれません。しかし、一方でそうした人生は、『考えることをやめた人生』だともいうことができます。
もちろん、今すぐに会社をやめることは、家族や会社に迷惑をかけることになってしまうので、避けるべきでしょう。しかし、長い人生を考えた時に、早いうちから『働くことの意味』を見直したり、考えたりすることは決して無駄ではないはずです。
前述のリンダ・グラットン氏は、『孤独で貧困な人生』と『自由で創造的な人生』のどちらになるかについて次のようにいっています。
どちらの人生になるかは、〈ワーク・シフト〉できるか否かにかかっている。
リンダ・グラットン│ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉
仕事にやりがいだけを追い求めるな!
就職活動の場などで、『やりがいのある仕事だと思ったので、志望しました』ということを言ったことがある人もいるかもしれません。もちろん仕事が楽しかったり、やりがいがあるに越したことはありません。
しかし、仕事にやりがいだけを求めると、必ずその仕事を離れた時に喪失感が湧いてきます。いつまでも、そのやりがいがある仕事がやり続けられる訳ではありません。
また、仕事にやりがいばかりを求める人は、人生の目標や夢が仕事の目標になっていることがほとんどです。
人生の目標と仕事の目標が同じになっている人が、仕事を引退した後を調査があります。その調査がBBCで公表され、非常に話題になりました。
リタイア後の平均寿命は、18ヶ月
average life expectancy after retirement is just 18 months
つまりこの調査が、仕事にやりがいだけを求めたり、仕事の目標と人生の目標が一緒になるくらい仕事に、没頭することは非常に危険であることを世界に証明したのです。
20代から、いろんな人に出会うべき
今、定年退職後の方へ向けた講演会や講座などで言われることがあるといいます。
それは、「きょうよう」と「きょういく」をもつべきということです。これは、「教養」と「教育」ではなく「きょうよう」は「今日、用がある」、「きょういく」は「今日、行くところがある」を略した言葉だといいます。つまり、ほとんんどの定年退職後の人が、毎日やることもなければ、行く場所がないというのが普通なのです。
最近では、病院が定年退職後の人たちの憩いの場になりつつあることが、問題視されています。毎日病院に通うことが当たり前になってしまっており、1日でも病院に行かないと「○○さんは、具合が悪いから今日は病院に来ていないのかな?」などという、本末転倒な会話が日本全国の病院で繰り広げられていると言います。
こうした定年退職後を迎えないために、20代のうちから一つの会社の価値観に縛られず、積極的にいろいろな人に出会いに行く姿勢が重要だと言われています。30代から人脈を広げようと思っても、結婚をしていたり、子供が産まれていたりして、時間的な時間が効きにくくなっていることが多くあります。
20代のうちに、いろいろな人に出会い、いろいろな働き方を知り、いろいろな意識や経験を得ていくことで、自然と生涯ともに同じ方向に進みたいと思うような仲間が見つかるといいます。
京都大学客員准教授でビジネス書大賞を受賞し、エンジェル投資家としても著名な瀧本哲史氏は、学生や社会に出たばかりの20代に向けて次のようにいっています。
新しいことを始めようとしている人、そして若い人たちに必要なのが、「チーム」を作ることなのだ。新しい価値観も、新しいパラダイムも、ひとりだけの力では、世の中に広めていくことは難しい。自分とビジョンを共有し、その実現に向けて行動する仲間を見つけ出して初めてスタートラインに立つのだ。
瀧本哲史│君に友だちはいらない
若いうちから、いろいろな人に出会い、孤独な老後を迎えないような日々の時間の使い方をしていくことが重要だと感じます。