日本政府が働き方改革を呼びかけ、多くの企業で、残業の削減や仕事の効率化などが行われています。
しかし、あなた自身は今の働き方に満足をしているでしょうか。
今の働き方をこれからもずっと続けていきたいと思えるでしょうか。
テクノロジーの発展とともに、誰でも新しい働き方ができるようになりました。
働き方を考える上で、切っても切り離せないのが、給料についてです。
・あなたは、自分がもらっている「給料の金額」に満足していますか?
・その金額は、あなたが行っている仕事内容に対して「妥当」な額ですか?
ほとんどの人が、今もらっている給料に満足していなかったり、もっと貰っても良いのではないかと考えたりするはずです。
では、次の質問に答えることができるでしょうか。
・あなたは、自分の「給料の金額」がどうやって決まっているのか、ご存じですか?
・給与明細を見て、なぜその金額をもらっているのか、「論理的に説明」できますか?
・「もっともらってもいいはず」と感じる方は、では論理的にいくらが「正しい金額」だと思いますか?
多くの人が、もっと給料が欲しいと考える一方で、何故その金額になっているかがわからないまま働いているのではないでしょうか。
もっと頑張って成果をあげたら、給料は増えるのではないか。
資格を取ったら、給料は増えるのではないか。
なんとなくの中で、闇雲に努力をしているのではないでしょうか。
給料の仕組みから、私たちはどのように稼いでいけばいいのかのヒントが満載の一冊をご紹介いたします。
人生格差はこれで決まる 働き方の損益分岐点|木暮太一
著者累計167万部を超えるビジネス書著者である木暮太一さんの『人生格差はこれで決まる 働き方の損益分岐点』は、経済学の観点から給料の決まり方を解説し、私たちはこの先どのように会社に左右されない自分資産を積み上げるべきなのかまで、とてもわかりやすく書いてくれている一冊です。
本書は、次のような方にオススメです。
これからの働き方に悩んでいる方
マルクスの『資本論』やロバート・キヨサキの『金持ち父さん貧乏父さん』で何が書かれているか知りたい方、もしくは既に読んだことがある方
今の仕事をいつまでも続けたくない方
会社に雇われて働いている方
給料の決まり方は、2種類
経済学的に考えると、給料の決まり方は、2種類しかないと言います。
山ほどの企業があり、そこでたくさんの人が働いていますが、基本的にはどちらかの方式で給料が決められています。
①必要経費方式
②利益分け前方式(成果報酬方式)
必要経費方式
主に日本企業は、①の必要経費方式を採用しています。
社員のことを家族と考え、家族が生活できるだけのお金を、給料として払っているのです。
言い換えると、「経費の積み上げ」によって、給料が決まっているのです。
しかし、逆にいうと
必要経費方式では、生活に必要なお金しかもらえない
ということになります。
つまり、営業成績やどのくらい会社に貢献しているかということは、給料とは無関係ということです。
利益分け前方式(成果報酬方式)
②利益分け前方式(成果報酬方式)は、主に外資系金融機関や、いわゆるフルコミッションという形態を取っている会社で使われています。
結果が全ての世界で、結果が出せない人は給料がほとんどなく、生きていけないのならば会社を去っていく世界です。
こうした会社では、年齢・性別などは一切関係なく、20代の新入社員であろうと、ベテラン社員の給料を1ヶ月で抜くことも可能です。
ここで注意が必要なのは、日本企業も一部「成果主義」を取り入れている会社があることです。
しかし、日本企業が行っている成果主義は、あくまでもベースは必要経費方式で、その一環として採用されていることがほとんどで、②利益分け前方式(成果報酬方式)を採用している日本企業はまずないと考えて問題ありません。
日本企業の場合、多少のプラスアルファを、元々の給料に上乗せしてるだけであり、社員があげた成果に100%応じて給料が決まっているわけではないのです。
外資系金融機関が採用する②利益分け前方式(成果報酬方式)では、自分が出した利益の数%を給料で受け取れ、倍の利益を出せば当然給料も倍になります。
日本で、そうした給料を受け取ることができる会社は皆無でしょう。
転職しても問題は解決しない
(画像:厚生労働省|転職入職者の状況 ※グラフはデータを元に筆者作成)
厚生労働省が発表している、『転職入職者の状況』によれば、転職後1割以上の給料の増減があった人は共に25%前後、1割未満の増減があった人も10%前後と、増えている人も減っている人もほとんど同じ割合なことがわかります。
一瞬は、転職することで手取りの給与は変わるかも知れませんが、根本的な解決にはなっていないのです。
そもそも、日本企業が採用している必要経費方式の給与の決まり方では、1000万円の給料がもらえるということは、私生活で1000万円の経費がかかることが前提とされており、自分が自由に使えるお金が増えることではないのです。
給与は「明日も同じように働くために必要な経費のみ」
日本の企業において給料は「努力」や「成果」に応じて決まっているわけではないからです。
給料の金額は、「努力の量」によって決まっているわけではありません。ですから、「あの人はがんばっているのに給料が少ない」という問題提起は 的外れです。
給料の金額は、「成果」によって決まっているわけでもありません。ですから仮に「自分が成果を出していて、同僚が成果を出していない」という主張が事実だったとしても、「それとこれとは別の話」なのです。
給料の金額は、「努力量」「成果」とは全く違うところで決まっているのです。
信じたくないかも知れませんが、日本企業が給料を決める基準は、
みなさんが明日も同じように働くために必要なお金という意味なのです。
マルクス経済学では、「労働の再生産コスト」という言葉を使っています。
「再生産コスト」とは、もう一度同じことをするために必要なコストのことを指します。
人が労働者として1日働けば、お腹が減るため食事をするために食費が必要です。
体力を使うため、休息をとるための家のために家賃が必要です。
違う服を着るための洋服代やクリーニング代が必要です。
これらを合計した金額が、労働力の再生産コストになるのです。
ここに努力や成果は全く関係なく、努力や成果で給料が反映されるのは、あくまでも多少のプラスアルファで、基本部分は労働力の再生産コストで決められているのです。
「使用価値」と「価値」
給与の構造を考えるにあたって、「使用価値」と「価値」という言葉が重要になります。
例えば、iPhoneの価値とはなんでしょうか。
- どこでもインターネットが使える
- 電話ができる
- 手軽に写真が撮れる
- 地図が見れる
- 動画が見れる
- SNSが使える
などなど、たくさんの価値があると思います。
今あげた価値は「使用価値」という意味での価値になります。
〈「使用価値」とは──〉
まず、「使用価値」という言葉について見ていきましょう。 『資本論』では、「有益性・有用性」という意味で「使用価値」という言葉を使っています。「使用価値がある」とは、「(その商品やモノを) 使ってみて意味がある、何かの役に立つ」という意味です。
(画像: Anna Hoychuk / Shutterstock
)
iPhoneには、もう一つの価値があります。
それは、iPhoneと作るためにどれくらい手間がかかっているかという価値です。
つまり、スクリーンを作るための材料の価値とそれを組み立てた労働力の価値、バッテリーの材料と組み立てた労働力、カメラの材料と組み立てた労働力、、、など。
〈「価値」とは──〉
『資本論』において「ものの価値」は、「それを作るのにどれくらい手間がかかったか」で決まります。つまり、「労力がかかっているもの」「人の手がかかっているもの」が「価値を持つ」のです。
商品の価値は、「使用価値」で決まるのではなく、「価値」で決まっているのです。
iPhoneもバカラのグラスも、10万円以上しますが、バカラのグラスにはどう考えてもiPhoneほどの使用価値はありません。
バカラのグラスは、インターネットも使えなければ、電話もできません。
しかし、お店に並んでいる時は、同じくらいの値段で売られているのです。
バカラのグラスを製造するために、高級な原料が使われており、たくさんの職人が加工しているから、これだけの価値があるのです。
経済学的に見れば、労働力も「商品」
ここで重要なことは、労働力は商品であるということです。
自分の労働力を会社に売り、その対価として給料をもらっているのが現実なのです。
そして、労働力の値段は、「使用価値」ではなく、他の商品と同様「価値」で決められているのです。
労働力も商品であるならば、その「労働力という商品の価値」も、その他の一般的な商品と同じように決まるはずです。つまり、労働力という商品の価値は、「その”労働力”という商品を作るのに必要な原材料の価値の合計で決まる」というわけです。
では、その「労働力を作るのに必要な原材料」とは何か?「労働力」というモノ(物質) はありません。したがって、労働力を「形作っているモノ」も存在しません。
ですが、「何があったら、わたしたちは労働力を売ることができるか?」と言い換えてみると、イメージしやすいのではないでしょうか。
「労働力を売ることができる」ということは、要するに「働ける状態にある」ということです。つまり、「その日一日、働けるように準備しておく」ということです。
ということは、「労働力を作る」とは、今日一日働いて「エネルギー0」の状態から、翌日も働けるように「エネルギー100(満タン)」の状態にまで回復させることだと考えられます。
これをマルクスは「労働力の再生産」と表現しました。
労働の価値を、簡略化していますが、次の図のように表現することができます。
エリートは、需要と共有の関係で、給料が高い
成果を出している人は、社内で昇給して、転職をすれば給料が上がるという疑問があると思います。
これは、他の商品同様、需要と供給の関係で変化しているに過ぎないのです。
成果を出す人は、他の企業からも需要が高く、需要過多になるため、給料が上がっていくのです。
その証拠として、いくら仕事ができる人であっても、2倍の利益を出したとしても、2倍の給料はもらっていないはずです。
発展途上国の人件費が安い理由
日本企業でも多くのメーカーが、中国や東南アジアに工場を作り、そこで商品を生産しています。
出来上がる商品は一緒なのに、発展途上国で生産するのは、人件費が安いからです。
では、なぜ発展途上国は人件費が安いのでしょうか。
途上国の人件費が先進国に比べて安いのは、「途上国の物価が安いので、労働者は安く生活ができる。労働者が安く生活できるということは、労働力の再生産コストが低い。つまり、労働力の価値が低い」からです。
やはり「労働力の価値」が給料の金額を決めているのです。
実は、日本企業の給料も物価が上がれば、労働力の再生産コストが上がるため、給料は上がり、物価が下がれば再生産コストが下がるため、給料は減っているのです。
次の図は、国税庁が発表する『民間給与実態統計調査』に、総務省統計局が発表する『消費者物価指数(CPI)』を照らし合わせたものです。
完全に連動はしていませんが、物価が下がれば給料は下がり、物価が上がれば給料が上がっていることがわかります。
医者が介護士の給料が3倍の理由
労働の価値には、必要なスキルを身につけるための労力が加算されていることも覚えておかなければいけません。
医者は人の命を預かる非常に難しい業務をしていますが、人の命を預かるという意味では介護士も同じだけの責任を負っているはずです。
しかし、実際の給料には物凄い差が生じています。
医者の給料が高いのは、医者の仕事をこなすために膨大な知識を身につけなければならず、そのために長期間準備をしてきたからです。医者になるまでの準備が大変で、みんながそれを理解しています。だから給料が高いのです。
介護士の仕事は非常に重労働で、社会的意義も高い仕事です。しかし、介護士になるための準備は、医者になるための準備よりも少なくて済みます。
この差が、給料の差になっているのです。
医者と同様の理由で、一般的に難易度の高いと言われる資格が必要な、医者、弁護士、パイロット、一級建築士、税理士などの職業は給料が高くなる傾向があるのです。
オジサンの給料が高いのはあたりまえ
皆さんの会社にも、1人くらいは、全く仕事をしていないように見えるのに、高額の給料をもらっているオジサンがいるのではないでしょうか。
ここまでお読みいただいた方であれば、その理由が想像できると思います。
一般的に歳をとれば、結婚し、家庭を持ち、子供を育てるため、必要な経費が増えるため、給料が高くなっていくのです。
結婚しても、子供がいても、会社での仕事への結果には、大きな差はほとんど生まれないでしょう。
しかし、経費がかかるから、給料は勝手に増えてしまうのです。
給料の正体
労働力を再生産するために(明日も働くために)、食事をとらなければいけません。
だから会社は、食費の分だけ給料としてお金をくれます。
労働力を再生産するために(明日も働くために)、休息をとらなければいけません。
だから会社は、家賃の分だけ給料としてお金をくれます。
労働力を再生産するために(明日も働くために)、衣服を着なければいけません。
だから会社は、洋服代の分だけ給料としてお金をくれます。
このように考えると、労働者は「明日も同じ仕事をするために必要な分」しかもらっていないのです。
また、社会平均的に「ひと月に数回は飲みに行って気晴らしをしないとやってられない」と考えられていたとしたら、その飲み代も「必要経費」として給料に上乗せされて支給されます。
ただこれも「精神衛生を守るための必要経費」なのです。
必要だからくれるだけであって、決して労働者が「がんばったから」「成果を出したから」くれるわけではありません。
わたしたちの給料は、このように「必要経費の積み上げ」によって決まっているのです。
「必要経費方式」の本当の意味をご理解いただけたでしょうか?
そしてこれが、「なぜ、あなたの生活には余裕がないのか?」の答えになります。
悲しい答えかも知れませんが、これが資本主義の本質であり、私たちの給料の正体なのです。
私たちの出す成果や日々の努力とは全く違うところで、私たちの給料が決定されていることがわかれば、給料のために努力をするのではなく、会社員以外の働き方で自分の収入を作っていくことを考えることもできるはずです。
まとめ
私たちが日々働いて、毎月給料をもらっているのにも関わらず、全く給料のことを理解できていないという現状に対して、わかりやすく給料の本質を説明してくれています。
政府がいくら働き方改革と声高に叫んだとしても、実際に私たちの生活が豊かになっているかといえば、疑問が残ります。
今取り組んでいる仕事の延長線上に幸せな人生が明確に描けるのであれば、それに越したことはありませんが、ほとんどの人にとって今の仕事の先に自分の理想とする人生は見つからないはずです。
なぜなら、資本主義という仕組み自体が、会社で働くサラリーマンには幸せな人生は手に入れられないくらいの収入しか与えないという仕組みだからです。
本書をきっかけに、働くとは何か、収入を得るとは何かについて考えてみてはいかがでしょうか。
現代社会で働く全ての人にオススメの一冊ですし、是非お手にとっていただきたいと思います。
本書の著者である木暮太一さんが、マルクスの「資本論」を2時間で読める超入門編として纏めた『超入門 資本論』もおすすめです。本書の中でもたびたび紹介されている「資本論」は、とても難解な経済書ですが、そこには私たちの生きる時代の仕組みが書かれていたのです。本書とあわせて読むとより理解が深まります。
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